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2008年6月3日

公立保育園の民営化計画、特別支援教育などで西宮市、神戸市を視察 その3


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日本共産党川崎市会議員団は、5月8~9日、西宮市における公立保育園の民営化計画の動向、神戸市における公立幼稚園の現状と幼児教育、兵庫県の特別支援教育センターの視察を行ないました。今回は3回にわたる報告の最終回。
(3)神戸市における公立幼稚園、幼児教育の位置づけと現状
について報告します。

●神戸市における公立幼稚園、幼児教育の位置づけと現状について

5月9日11時、一行は官庁街のなかにある神戸市立神戸幼稚園に到着。神戸市の市立幼稚園は現在46園、すべて2年保育で実施している。この日訪ねた園は今年で創立121年、神戸市立幼稚園の中で最も歴史のある幼稚園だ。歴代園長の肖像画が飾られた会議室で、園長先生から、神戸市の幼稚園教育や同園の歴史、現状などの説明を受けた。

創立121年、神戸の市立幼稚園で最も歴史ある園を訪ねて

神戸市の幼稚園教育の歴史は古い。1887年(M20年)、この日訪れた園の前身である私立神戸幼稚園と、私立兵庫幼稚園が開設された。当時、元町で粗野な言動の子どもを見た教育者が、幼児教育が大事だと取り組み、地域の力で幼稚園が設立されたという。神戸幼稚園は、小磯吉人氏(小磯良平画伯の父)ら有力者の尽力で誕生。初代園長望月クニは、幼稚園の法令改正のために、京阪神はもとより岡山、名古屋、仙台、熊本と全国各地の保育者に檄をとばし、数年に渡って陳情請願を続けた。その結果、勅令として大正15年4月21日、「幼稚園令」(文部省)が公布され、長年の努力が実った。こうした望月クニの功績は、神戸市立幼稚園における教育の礎と保育の先駆者として、いまも語り継がれている。
「幼稚園令」は第1条に「幼稚園ハ幼児ヲ保育シテ其心身ヲ健全ニ発達セシメ善良ナル性情ヲ涵養シ家庭教育ヲ補フヲ以テ目的トスル」要旨を示した。幼稚園教育の重要性が、ようやく一般社会に認識され始めたのだった。
神戸市の幼稚園教育は、民間から公教育へと移りながら着実に基礎を築いていった歴史で、私立が市立に移管された園が多く、同神戸幼稚園も、戦後まもない1948年(昭和23年)、私立神戸幼稚園が戦後の経営難から神戸市に移管されたものだ。

地域の力で支えられ守られてきた神戸幼稚園の歴史

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現在、同神戸幼稚園の児童数は合計70人(平成20年5月時点、4歳児31人、5歳児20人・19人)。園長先生は「この幼稚園は地域の力で支えられ、歴代の園長が努力されて続いてきました」の述べ、「園庭には四季折々の花や実のなる木など緑があふれ、木の山のまわりに川が流れ、ザリガニの棲むグルグル池があり、自然いっぱいで、子どもたちの心を動かす工夫がされている幼稚園です」と紹介。「うちの園は定員がありません。もっと来ていただいても入れます」と述べた。
同園は比較的若い先生が多いが、公立なので、当然、産休・育休明けで元の職場に戻れる。中堅・ベテランの先生が育ち、女性が働き続けられる職場があることはすばらしいことだ。
私立幼稚園との連携について、園長先生は「神戸市立幼稚園と私立幼稚園の合同研究会、園長同士の話し合いの連携があります」と述べ、「幼児教育の現場がお互い危機感をもって、保育の質を高めよう、子どもにとって何が大切か、一緒に進んでいこうという立場」と述べた。
7階建ての建物の1・2階が幼稚園で、上階が市の福祉会館で、情緒障害通級指導教室も併設されており、幼児だけでなく、小・中学校の先生とも協力し、そこには、私立幼稚園や保育園からも児童が通う。園長先生は、障害のある児童について「公立は原則的に受け入れます。私立の園で居づらくなって、こちらにきたという事例もあります」と話された。

自然いっぱい、広々した園庭~ここは子どもたちの楽園だ

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このあと、園庭や園舎を見学させていただいた。まず園庭に出ると、園の軒下に、割り箸でつくった園児一人ひとりのザリガニ釣り用の「マイ竿」が数十本もズラリ並んだ棚があった。木の丘のまわりを流れるグルグル池には、聞いた通り、ザリガニがたくさんいて、子どもたちが実演してくれて、どんどん釣り上げていた。隣の大きな池には錦鯉など大きな鯉がいっぱい泳ぎ、その横には大きなウサギ小屋。自然も動物もいっぱい、子どもたちの楽園だ。
その向うは、これまた広い園庭にびっくり。子どもたちが走るためのトラックがあり、ここで運動会も行なっているという。70人の園児と家族が運動会を楽しむには十分な広さ。園庭プラスグラウンドという感じだ。枇杷など実のなる木やいろんな樹木が茂り、ガーデニングをしている「キラキラテラス」で園長先生と議員全員で記念撮影をした。
さらに、園庭の向こう側には恐竜のような大きな遊具と、ログハウス風の「絵本の家」。お砂場セットも充実し、子どもたちは自然の中で、好きな遊びを選んで、のびのびと動き回っている。入園前に園を下見にくる若いお母さんたちは、官庁街の真ん中にこんな自然の豊かな園があることを知って、「都内の中のオアシスですね」と驚く人がいるという。
そのあと、保育室(60平方メートル)、2階の遊戯室(220平方メートル)などを見学。広々として開放的で、日当たりがよく風通しのよい保育環境で、これなら子どもにストレスがたまらず、おだやかに育つのではと思った。議員らは、豊かな自然と、いかにも子どもたちが喜びそうな園庭の整備に感心し、「公立でこんな環境で遊べて、神戸の子どもたちはうらやましいですね」と語った。

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公立・私立が「協調と連携」で発展してきた幼稚園教育

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神戸幼稚園を後にして、一行は、徒歩で神戸市役所に向かった。市役所では、教育委員会総務部主幹、同学校再開発・振興室主査、同調査課学事計画係長の御三方、神戸市における公立幼稚園の歴史や、幼児教育施策の現状などを説明してくださった。
現在、市内の幼稚園数は私立が98、公立が46で、これまでも公私立の幼稚園は「協調と連携」の姿勢でとりくんでいるという。
人口急増期の昭和39年に「5歳児全員就園体制」の方針を打ち出し、昭和42年からその実施にふみきった。市立幼稚園は、希望するすべての5歳児の受け入れを行なうものとし、2年・3年保育を希望する者については、私立幼稚園に委ねる方針で、神戸市の幼稚園教育が充実・発展してきたという。昭和39年以降、新開発団地における幼児人口の増加に対応して、数多くの公私立幼稚園が設置され、ピーク時には公立は79園まで増え、当時、人口当たりの園数では他都市に比べても非常に多くなった。
昭和56年に7,314人であった公立の園児数はその後減少、平成7年の大震災時、市の人口も幼児人口も減り、園児数は2,917人に減った(当時、公立は70園、うち2年保育は24)。平成7年7月に「神戸市幼稚園教育振興検討委員会報告書」(*)を発表。そこで、4歳児の全員就園方針を立て、希望するすべての4・5歳児に入園を保障するため、平成8年から「適正規模・適正配置」の名で公立幼稚園の統廃合をすすめるとともに、2年保育を順次拡大。平成15年から46園の全園で2年保育を開始した。以降、園児数はほぼ横ばいで推移し、平成19年時点、公立幼稚園は46園で園児数3,134人、公私立幼稚園の合計で17,703人(4・5歳)、いっぽう、母親の就労が増加するなど保護者のニーズが変化するなか、保育所の入園数が増え続けているという。

公立で「教室・職員を増やしても、希望者全員を入れます」と市担当者

最近では、ニュータウン開発で子どもが増えているのに対応して、市立長尾幼稚園を市単独で8400万円をかけて改築。また、市立幼稚園職員の平均年齢は現在、41.1歳、平均勤続年数は16年、職員の新規採用は平成19年度21人、20年度24人。公立幼稚園の運営費は、3クラスのモデル園(園長1人、教員3人、養護1人、管理1人)で、人件費が6,300万円、公立幼稚園46園全体の運営費は20年度予算で28億円、そのうち人件費は24億5千万円。
注目されるのは、神戸市の公立幼稚園は、1クラス定員は国基準通り35人以下だが、園ごとの定員は4歳児で設けている園が一部にあるが、5歳児は全園で定員も設けていない、基本的に定員上限がないことだ。いまは定員割れで現実的ではないが、仮に希望者が増えた場合はどう対応するのかという質問に対し、担当者は「希望者全員就園の方針なので、教室・職員を新たに増やしてでも全員入園させます」と頼もしい答えだった。公的に幼児教育を保障するのが当たり前という神戸市の姿勢に感心すると同時に、公立を全廃し、公的な責任を放棄しようとする川崎市の異常な姿勢が情けなく思った。

地域の子育て支援拠点として身近な存在の公立幼稚園

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公立幼稚園が地域の子育て支援の拠点施設になっていることも注目される。
●「幼児のひろば」は現在26園で実施。日・祝日を除く毎日、幼稚園の園庭開放事業であり、地域の幼児・児童の安全な遊び場、異年齢交流、親同士のふれあいの場を提供している。
●「みんなの幼稚園」は46園・全園で実施。園庭等を開放し、地域の幼児を対象とした定期的な保育、参加者を対象とした教育相談や子育て教育を月4回程度行ない、保護者の不安や悩みに対応している。地域の幼児(在宅児等)と保護者が対象。この事業によって、公立幼稚園が地域の親子にとって身近な場所になっている。
●「子育てサークル支援」は21園で実施。幼稚園の園庭や保育室を開放し、保護者の自主的な子育てグループの活動を支援し、互いに子育てを学び、楽しむ場を提供している。保護者メンバーによる親子遊びや悩み相談など定期的な自主保育が月2回程度行なわれている。
●「預かり保育」は17園で実施。幼稚園の教育時間終了後、幼稚園の管理下で、希望する在園児を預かる、いわゆる「延長保育」。費用は保護者負担。指導員の確保に苦労している。
年間行事としては、毎年、一大イベントとして、市立幼稚園の親子・関係者が一同に会する「あつまれ こうべっこ」を開催。平成19年11月もポートアイランドホールで約3千人が参加して、お遊戯、親子遊びなどで交流した。

障害児受け入れも公立が中心、保育料の減免制度も

統合保育、障害児の受け入れでは、公立が中軸で、かなり重度の子も公立に入れている。私立は98円1万9千人のうち障害児は数十人、公立幼稚園は園児数約3千人のうち150~160人の障害児を受け入れているという。
父母負担の料金は、入園料が6,300円、保育料は年額12万円(12,000円の10回払い)で全市共通。これでも「政令市の中では高い方です」という。こういう料金でも、低所得者には保育料減免の制度がある。収入基準がAランク(生活保護世帯)は全額免除で無料、Bランクは12,000円が4,000円に、Cランクは半額の6,000円に減額される。現在、減免制度の利用者は全体の1割程度いるという。
以上