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2012年7月27日

岩手県への視察(4) 【岩手県の震災被害と今後の課題、求められる支援】


4、日本共産党岩手県議団(斉藤信団長)との懇談

日本共産党川崎市会議員団は7月10日、①災害廃棄物処理の必要性や市民・県民の声や実態、自治体の実情②被災の実態、復興の進捗状況と今後の課題③いま被災地以外の自治体に求められている支援とは-の3点をテーマに、岩手県庁で斉藤信県議と懇談を行いました。その要点を報告します。

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・災害廃棄物の処理について

一次仮置き場は県内90カ所に置かれており、大きく廃棄物の種類ごとに分別され、10~15m積み上げられている。仮置き場の多くは海岸の平場にあり、1~2mの津波が来ればまた海に流されてしまう危険性がある。岩手県の地形上、平場の土地が少ないことがネックとなっている。

木くずについては、処理必要量が廃棄物総量の見直しをうけて減少、現在のところ広域処理を表明した自治体が実施してくれれば見通しが立つ、という状況だ。この「見通しが立った」というのは、広域処理に手をあげた自治体がやってくれれば、という前提付きだ。

・廃木材を活用した「復興ボード」など廃棄物の再利用

野田村では松林から発生した木質廃棄物(チップ)を買い取ってもらう取り組みをしている。宮古市も「復興ボード」で柱や角材の再利用をはかっている。このような枠組みを広げることは重要だ。また「命の防潮堤」が大槌町で取り組まれており、木質系の廃棄物を埋めている。しかし、土砂系や堆積物などは埋めて大丈夫なのかまだわからない、というのが実情で、こうした不燃物が最大で200万トン近くあるため、これら不燃物の処理をどうしていくかは、まだ検討されていない大きな課題だ。

放射線の問題が広域処理のネックになっている。岩手県議団は、もっと放射線計測を行うこと、情報公開を徹底することを求めている。

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(資料:廃棄物処理詳細計画の概要…岩手県庁HPより)

・仮設住宅での孤立など「災害関連死」が444人

「災害関連死」が深刻になってきた(表)。2012年5月末の「申し出数」が444人あり実態もほぼこれと同じ人数だ。震災関連の自殺が21人、孤独死が11人すでに出ている。「仮設相談員」が配置されたが、「一人暮らしのお年寄りが外に出てこない」と嘆いている。一人暮らしのお年寄りがどこにいるか、民生委員には当然知らされているが、町内会には個人情報の関係で知らされていないことも困難の原因の一つだ。

昨年は「生きるのに必死」だったが、今年になって疲れが出てきて「展望が見えない」と死を選ぶ人がうまれている。一人暮らしの約4割がうつ状態、とする調査結果が出ている。

仮設住宅は、3~4人家族が4畳半2間に住んでいる、という状況だ。元々は「3ヶ月で仮設を出る」という想定でつくられており、とても3年間も暮らせる住居とはいえない。陸前高田市では4割の方が仮設住宅に暮らしているが、その子どもたちは仮設の中では声を出さないように緊張していて学校に行くとハイになる、という実態。学校のグラウンドや体育館、運動公園などは仮設住宅などに転用されていまっているため、子どもの遊び場を確保しストレスを解消する必要がある。

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(画像:岩手県の資料より)

・生業(なりわい)の復興はこれから

▽商工業

事業所の再開・二重ローン問題について、営業を再開した事業所は7割程度、しかし被害規模の大きかった山田町、大槌町、陸前高田市は5~6割となかなか再開できていない(表)。仮設店舗の申請は1518と元の数も少なく、完成したのは77%にとどまっている。岩手産業復興機構の二重ローン買い取りは296社から相談を受けたにもかかわらず、12件しかされておらず、個人の住宅ローンなどの二重ローン買い取りも75件中3件しか実施されていない。いずれも使い勝手の良い制度にすることが求められている。

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(画像:岩手県の資料より)

▽漁業

漁業について、被害を受けた漁船1万3千隻に対して6081隻が確保されたところであり、養殖施設はようやく49.6%が整備された(今春のワカメは昨年の6割規模)という段階で、漁業経営体の再開は53%(下図参照)。

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他の震災被害の事例と質的に違うのが仕事の問題だ。東北では漁業や水産加工など「海が仕事のおおもと」であり、「津波によって仕事も生活も奪われた」という状況だ。仕事が復興していかないと、沿岸部に住んでいる意味がなくなってしまうため、生業の復興への強力な支援が求められる。

(稲わらや堆肥の放射能汚染対策に苦慮している農業の実情、集落単位での住居の高台移転の問題についても、斉藤県議から現状と展望が話されました)

・被災地以外の自治体に求められる支援

援助をいただいているが、それでも技術職員が圧倒的に足りない。区画整理を手掛けたことのある人の派遣などが必要だ。120~30カ所の移転などの実務がこれからはじまる。それを現在の26人の技術職員ではまわしきれない。

移転事業をすすめていけば、縄文時代からの埋蔵文化財も出土してくる。自治体のリストラが進められて、こうした文化財に対応できる基礎自治体の職員も極限まで減らされてきたうえに、たとえば陸前高田市では非正規含め100人を超える職員が犠牲になっている。事務職員も震災前と同じ職員数で2~3倍の業務量をこなしているため、うつ病など精神疾患で働けなくなる職員も出ている。

もう一つの問題は、被災地のことがほとんど報道されなくなってきていることだ。がれき処理が進んでいる、復興が進んでいる、と思われがちだが実態はそうではない。定期的にさまざまな形で発信してほしい。忘れ去られることを被災者は恐れている。さまざまなボランティアに励まされている。こうした活動を途切れさせず続けてほしい。

・災害時の避難のあり方、避難所など行政の支援のあり方

「釜石の奇跡」(防災教育を受けた中学生が、小学生やお年寄りを誘導して無事に非難した事例)が注目されるが、逆に同じ地域で低地にある「防災センター」に避難した多くの住民が犠牲になった「釜石の悲劇」の事例もある。災害の時にどこにどう逃げるのか避難路や避難施設を整備すること、避難所を設定しても暖房がないと、訓練のときでも高齢者などは足が向かない。

首都圏でもこうしたことをふまえて地震後5~10分で可能な避難計画を立てる必要があるのではないか。

昨年の津波災害をふまえて、防潮堤や宮古市の水門などの計画や建設がはじまっているが、コンクリートの寿命は40年と言われている。「100年に1度」の災害の時にはボロボロで機能しなくなってしまう。大規模な施設をつくれば維持管理で自治体財政に相当な負担がかかる。防潮堤など大規模な施設をつくっていくか、それとも避難計画や避難のための施設を重視するのか、冷静な議論が必要だ。

視察を終えて

岩手県の災害廃棄物一時仮置き場は、少ない平地(住宅地の近傍の場合も)に設置されています。これからの土地利用のうえでも災害廃棄物の早期の処理が切実に求められていますが、漁具・漁網、不燃物の処理の方策はいまだ見えず、処理は進んでいません。

また、被災した自治体が、仮設住宅の一人暮らし高齢者の孤立や生業(なりわい)の復興、住居の高台への移転など、困難な課題の中で膨大な業務に追われている実状を目にしてきました。

普段から地元産業を重視することが災害に強いまちづくりにつながることも、この視察で見えてきました。住田町では林業をいかした防災対策、宮古市では建設業を振興するための住宅リフォーム助成制度が、震災からの復興に役立っていました。

一方で、被災した自治体の復興の担い手となる自治体職員が技術職員・事務職員ともに人減らしされている中での震災だったことが、復興を遅くする要因となっていました。

懇談の中では、「災害廃棄物の放射能は多くがND(不検出)だという事実を理解してほしい」、「通常の2~3倍業務量でうつなどの精神疾患による休職もうまれている。事務職員も不足しているが、圧倒的に技術職員が足りない」といった要望も出されました。

こうした実状や要望をふまえて、ひきつづき日本共産党川崎市議団は、市民の安全を確保するとともに、本当に被災地が求めている支援を実践する立場でこの問題に取り組んでいきます。

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(写真:大船渡市のカキ養殖の様子)